シンガポール・スリング
8

・・・・・・・

暖かい。

何かがふんわりと未希子を覆っていることを感じながら、意識がゆっくりと目覚めていった。目を閉じたまま心地よい感覚に身を任せて、大きく息を吸い込むと懐かしいような、男性の香りが鼻をくすぐった。

男性の香り?

未希子は混乱して、その原因となるものを確認しようとゆっくり眼を開けると、真っ黒な髪の毛が至近距離で視界に飛び込んできた。
未希子はびっくりして体を動かそうとしたが全く力が入らず、仕方なく頭を少し横にずらすと、体に巻き付いている腕ががっしりと未希子を引き留めた。

だ、誰?・・・それに、ここはどこ?

顔を左側に向けるとカーテンの奥からうっすらと朝日が見え、鼻に何かが刺さっているのがわかる。
病院?・・・あ、確か、カフェで優美さんと・・・。
優美さんが話をしなくてはいけないとか言っていて、コーヒーを淹れようとして・・・

そこからの記憶がない。

じゃあ、この人は・・・未希子が何とか体を起こそうと肘をついた時、男性はストレッチをしながら未希子の頭を何度か撫で、眠そうな顔でおはようと顔を上げた。未希子は目の前にある色香たっぷりのレンにびっくりして、ハッと息を呑んだ。レンはそんな未希子の表情に思わず口元がほころびた。

「よく眠れたか?」

ゆっくりと頭を撫でながら聞いてくるレンは昨日までの絶対零度のような視線ではなく、とろとろのはちみつのような甘い視線を投げかけていた。
未希子は今の状況が理解できず、ただ呆然と視線をレンに向けると、静かに未希子の髪を弄んでいた。

「気分はどう?少しは良くなったか?」

未希子はあまりにも優しく接してくるレンに対し、どう反応していいのかわからず、ただコクコクとうなずいた。
レンはベッドに半分以上体を預けた状態で、未希子の枕に自分の頭を預けて、右腕で未希子を抱きしめ、左腕は未希子の頭上を回って髪を梳いている。何も言わず、ただお互いじっと見つめ合っていたその時、病室のドアがガラッと開いて、二人の男性が入ってきた。

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