不器用主人の心は娘のもの

会いたい気持ち

 罪悪感に│苛《さいな》まれたまま朝を迎えた彼は、食事を下げに来たコリーンをぼんやりと見ていた。

 仕事もほとんど手に付かず、頭の中は起きた時から娘のことばかり。

 もっと彼女を優しく扱わなければ。
 しかし主人でない時にどうしていたのかを、夜に娘を前にするとどうしても忘れてしまう。
 今まで何事も比較的冷静に対処できていた自分が…

「…御主人様、あの『子犬ちゃん』のことなのですけれど」

 不意に片付け物をしていたコリーンにそう話し掛けられ、彼は即座に彼女を見る。

 『子犬』と聞き、何のことかと思った。

「あら私ったら…!御主人様、買われてきたあの子のことですわ」

 コリーンはうっかりしたというように口に手を当て、笑いながら言った。

(…私がそう言ったのだった。あの娘の様子はまるで怯えた子犬のよう…あながち間違ってはいなかったかもしれない)

 そう思いながら彼が、

「…娘が何だ?」

と問い掛けると、コリーンは手を動かしながら笑顔で答える。

「早くこのお屋敷に懐くといいですわね?せっかく来たんですもの」

 コリーンの言うとおり、懐いてほしい。
 しかし、本当にそのうち懐いてくれるだろうか?

 自分の中の、娘への執着が大きくなっていくのを感じる。
 彼はぼんやりと考えたまま、

「…そうだな…」

と呟くように返した。

 コリーンはふふっ、と笑い、一礼して部屋を出ていった。


 自分は娘をどうしたいのかが分からない。
 いま分かっているのは、昨晩の今日にはなるが娘がどうしているのかがどうしても気になるということ。

 彼はしばらく考え一人首を横に振ると、執事の姿に支度をして部屋を出ていった。
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