不器用主人の心は娘のもの

彼女が想う者

 数日経った夜。

 彼は悩んでいた。
 執事の姿では笑顔を見せてくれるようになった。しかし主人の姿では未だに表情を固くし、泣いたり拒んだりはしないだけでこちらをあまり見ようとしない。

(彼女に、買ったのは『主人』だと打ち明けるべきだったか…?しかしあの娘からすればきっと…)

 主人からでは快く贈り物を受け取ってはもらえないかもしれない、そう思い『執事長』である自分からということにしたのだったが、果たしてそれが合っていたのかどうか。

 それでも娘を腕に抱きたい。
 それは執事の姿ではすることのできない、たった一つの娘への自己表現だった。


 いつものように娘のいる部屋までやってきて戸をそっと開くと、彼女はぬいぐるみのすぐそばにいた。

 彼女はやってきた『主人』に気付かない様子。
 傍らのぬいぐるみの頭を縛られた手で撫でながら、本当に幸せそうにこう言う。

「…愛してる、あなたを…」

 そして愛おしげにぬいぐるみに優しく口付ける。

 それは娘から自分に対しては決してあることの無い、ずっと待ち焦がれていた姿だった。

 しかしそれらが自分に向けられた訳ではないと分かった途端、彼の中には怒りと悲しみが入り混じる、初めての感情が芽生える。

「そうか」

「っ、御主人様…!!」

 娘は主人に気付き急いで頭を下げるが、彼は感情のままにその肩を強く掴んだ。

「あっ…!!」

 娘は顔を歪める。

「そうか、そんなに私ではなく『テイル』が良いか…。私に泣き出すことなく身を任せるようになったのも、全てテイルの為か…!」

 怒りのまま娘をベッドに押し付ける。

「そんな…違います…!!」

 首を強く横に振り、そう否定する娘の言葉すらも彼は振り払った。

「ならば『テイル』に見ていてもらえ!お前が誰のものなのか…!!」
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