不器用主人の心は娘のもの

一方通行な謝罪

 翌朝、彼は自己嫌悪のまま娘の部屋へ行き、そっと頭を下げる。

「…許せ…」

 主人の姿でしたことを執事姿の自分が謝罪という、かなり妙な状態にも気付かず彼は彼女に夢中で謝罪をした。

 彼女は彼女なりに解釈をしたらしく、謝る目の前の『執事長』をかばう。

「いいえ…!御主人様がなんとおっしゃったのか、テイル様がどこまでご存知なのか分かりませんが、テイル様のせいじゃありません…!!私が、しっかりと御主人様に説明できなかったから…」

 彼女を抱きしめ、はっきりとしたことを言えないままの彼は、そのまま呟くように続ける。

「…私は、なんとお前に謝ったらいい…?まさかこの私が…。…許せ…」

 一言、『主人』も『執事長』も自分であり、全て自分が悪かったと言えればよかった。
 しかし今まで二つの姿で分けてしまった自分を戻すのは、彼にとってはさすがに簡単なことではない。

 彼は心のなかで打ち明けるべきか葛藤しながらも、娘に本当に申し訳なかったと思った。

「…お優しいテイル様…。私は大丈夫です…こんなにテイル様に気にかけて頂けるなんて、私はとても幸せです…」

 健気な娘は何も知らずに彼に笑い掛ける。

「っ、私の過ちは、そんなものでは…っ…」

 苦しみながら言いかけた彼の言葉は、彼女の次の一言に消えていった。

「…お優しいテイル様…お慕いしています…」

 彼はドキリと胸が高鳴った。

(私を、慕っている…?)

 彼はゆっくりとベッドに腰掛け、彼女を抱き寄せたまま自分に向かい合わせて膝に座らせた。
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