不器用主人の心は娘のもの

彼の罪悪感

 彼女は案の定、下を向き黙っている。

 娘は『主人』がどうあっても恐ろしいのだ。
 自分は無理やり初めてを奪い、嫉妬をすれば激しく責めたて、いつも彼女を冷たく扱った主人。

 触れたい気持ちを抑え近付いていく彼に気付き、彼女は目をつぶりまた下を向く。

「…悲しくなる…私に怯えられると…。『リュカ』は、私に怯えさせるためではなかったのに…」

 彼は、贈ったのが『執事長』だと彼女が思い込んでいるにも関わらず思わずそう呟く。

 本当のことは言えない。

 しかしぬいぐるみを贈ったのも、自分にも屋敷にも慣れてほしいと思った、娘を冷たく扱ってしまっていた…
 そんな罪悪感のある自分からの、唯一出来る償いのつもりだった。

 今出来ることは、自分がどんなに悲しくても娘に笑い掛けてやることだけ。
 どんなに『主人』の仮面が邪魔をしようとも。

 自身を保とうと握りしめた拳は悲しみのあまり震えた。

 彼女が『主人』を見ている…
 だから、もう少しだけ優しく…彼女が怯えることが無いよう…


 しかしもう限界だった。
 罪悪感と悲しみで、自らの胸は張り裂けそうに痛む。

「…食事を終えろ。コリーンを呼ぶ」

 彼は主人らしさを保てないまま柔らかな声色でそう言うと、彼女をもう見ることも出来ずに下を向いた。
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