不器用主人の心は娘のもの

現れた彼女

 その日の夜、彼は失意のまま庭で空を見上げていた。
 主人の姿で、仮面は着け忘れたまま。

 すでに三日以上の数日間の食事をほとんど摂れていないうえ、エイミを想っての後悔と心労がたたっているにも関わらず、彼は疲れ切ったままぼんやりとしていた。

 頭には未だに彼女のことばかり。
 今頃目を覚ましているかもしれないが、あの家ではまともに食事を摂れないであろうことは明白だった。

 とはいえこの屋敷でも三日近くも食事を摂らずにいたのだから、せめて、娘をあれだけ想う両親のもとにいたほうがきっと幸せだろう。
 今後は陰ながらでも、彼女やあの両親に何か自分のできることをして償わなければ。

 もし尋ねることができるなら、聞きたかったことも山ほどある。

 エイミの好きなものは何か、両親はどんな人間なのか…
 …好きな相手はいたのか…

 彼はエイミのことを何も知らなかった。
 そして謝らなければならないことも、もちろん数多くある。

「…エイミ…」

 彼はぼんやりとしたまま、そこから見える門の外に目をやった。


 …何者かの走り近付く足音が聞こえ、そして一瞬の間を置いて屋敷の門の近くで何かが倒れた音がする。

「…?」

 彼は警戒をすることも忘れ、フラフラとそちらに向かった。


 門の外はいつも通り、灯りもあまり無い薄暗い街の通りが見える。

 見下ろすと、見覚えのある黒色系の服を着た小さな身体…

「…エイミ…!!」

 それは紛れもなく自分の愛した彼女だった。

 彼はすぐさまその身体を抱き上げ、屋敷の中に早足で入っていった。
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