春になっても溶けないで
「え?」


予想外の言葉に、うまく言葉が出なかった。


死に場所を探すって?どういうこと?


「あ、俺、悠って言うんだ。よろしくね。」

驚く私をよそに、男の子ーー悠はどんどん話を進めていく。


悠は、白い頬に黒くてツヤツヤの髪、切れ長の目が印象的な、整った顔の人物だった。


なんだか、まるで雪みたいだ。悠はとても明るく喋るけれど、どこか儚げで守ってあげたくなるような雰囲気を持っている。


「こんなところで死ぬのは損だよ。もっと他にいいところがあるよ。」

悠は、私の顔を見ながらそう言った。

『自殺なんてやめろ!』みたいなことを言われると思っていたのだけれど、どうにもそうじゃないらしい。

「明日、また会って話そう?」

悠がすかさずそう言ってきた。

ころころと話が変わるから、よく分からない。明日も会えるのだろうか?

すると悠は、とても綺麗な笑顔をたたえてこう言ったのだ。

「じゃあね。桃瀬 凛さん。」

「え?」

それだけ言うと、悠は外階段を降りていってしまった。

桃瀬凛。それは、確かに私の名前だ。

でも、なんで私の名前を知っているのだろうか。

私は、名前を教えていないのに。




心臓がどくどくしていた。まるで走った後みたいに。

きっと、誰かと一緒にいられることが、とても久しぶりだったからだろう。


久しぶりに、明日がとても楽しみに思えた。
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