境界線を越えたくて
水沢さんへの想い
 いつでも言えると思っていた。
 いつでも伝えられると、そう思っていた。

 ねえ水沢さん。俺は君のことがずっと好きだったんだよ。

 水沢さんに恋をしているのだと自覚したのは、まだ微かにピンク色が残っている葉桜の頃。その年の開花は遅れていたから、入学して二週間が経っても桜はそこにいた。

 名前も知らないけれど、よく目が合った。それは俺が彼女を目で追っていたせいと、彼女も俺を頻繁に見ていたせい。だから俺は自惚れた。
 彼女ももしかしたら、俺を好いてくれているのかもしれないと。
 目が合えばドキッとした、心臓が締め付けられた。これが恋なのだと痛感していく毎日を送っていた。

 ひとりでいることが多かった彼女に近付くには、幾らかの度胸が必要だった。休み時間や放課後、皆の輪を抜け出し彼女の元へと駆け寄る勇気。
 しかしそれを出すのは今すぐじゃなくてもいいと思っていた。告白するのは、今じゃなくてもいいと。

 いつでも言えると思っていた。
 いつでも伝えられると、そう思っていたから。
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