『竜の聖女の刻印』が現れたので、浮気性のあなたとはこれでお終いですね!
 
「……私は聖女として、立派に勤めを果たします。だからお父様、どうかレイシェアラのことを誇ってくださいませ」
「レイシェアラ……なにを言う。お前はずっと、私の誇りだよ。だから無理をしてほしくない。もっと自分を大切に、愛してあげなさい。頼むから今日はもう塔へ帰って休みなさい」
「——……。……はい、わかりました。本日は帰って、休みますわ」
「ああ、そうしなさい」

 本当はこのまま西の町まで行くつもりだったけれど、お父様があまりにも安心した顔をするので考えを改めた。
 私は多分、本当に勘違いしていたのだ。
 お父様の望みは、私が私を大切にすること。
 これまでは私の望みも大切にしてくれていたのだと思う。
 優しいお父様。
 私の大切な家族。

「お父様もお休みになってくださいね」
「ああ、王都の結界を直してくれてありがとう、レイシェアラ。私の愛しい娘」
「っ——」

 これからは、自分のことをもっと大切にしよう。
 私もお父様やお母様やお兄様や弟たちに、無理や無茶はしてほしくない。
 体を大事にしてほしい。
 きっとお父様も私に対してそう思ってくれている。
 自分を大事にすることは、家族を大事にすることなんだ。
 今更気づくなんて。
 でも、気づけてよかった。

『あるじ様! 天敵が城に入ってきたにゃん!』
「「えっ!」」

 天敵ってニコラス殿下のことよね?
 は、城に入ってきた!?
 な、なんで!?

『真っ直ぐこっちに近づいてくるにゃ! いろんな人に止められてるけど止まらないにゃん! 早く逃げないと見つかるにゃん!』
「そ、そ、そうね! え、ええと……でもどうしたら……!」

 玉座の奥は王族の寝所!
 時間的にどなたもいらっしゃらないだろうけれど、私が逃げ込むわけにはいかない。
 オロオロしているとお父様も困り果てて、室内をキョロキョロしている。

「おねーさま」
「レイシェアラおねーさま」
「こっち」
「こっち」
「え」

 玉座の裏側から、二人の子どもが私を手招きしている。
 同じ顔をした、この子たちは——!

「これは! エセル様とルセル様! お勉強の時間では!?」
「そんなことよりも早く」
「こっちこっち。お兄様がくるんでしょう?」
「「っ」」

 王族の寝所!
 お父様と顔を見合わせるが、双子の王子殿下が手招きするその先に入ることは憚られる。
 でも、ニコラス殿下の足音がすぐそこまで聞こえている気がして気が気ではない。

「お、お父様」
「致し方ない……。私も共によろしいですか」
「どうぞ」
「どうぞ」

 双子の王子殿下に招かれ、寝所に入る。
 廊下は赤く豪華な絨毯。
 二人は手を繋いで前を駆ける。
 そして一室に入り、私たちを手招きした。

「お兄様のことは」
「ぼく達に任せて」
「で、ですが……!」
「あなたには、長い間ご苦労をかけました」
「次期王太子として正式に謝罪の場を用意したいです」
「でもぼくらはまだ小さいので」
「それが叶いません」
「だからここはぼくたちに」
「どうか任せてくれませんか」

 し、しっかりしすぎていて申し訳なさを感じてしまう……!
 まだ十歳ばかりだと思ったのですが!

「あ、あの、ですが」
「ルセル、おねがい」
「了解、エセル」

 ぱち、と手を叩き、片方の王子が部屋から出ていく。
 残されたこちらは、ルセル様?

「お兄様はエセルが追い返すので、ご安心ください」
「あ、ありがとうございます……でもあの」
「兄は確かに愚兄ですが、そのおかげで『ああはなるまい』とぼくらは大人になれたと思うのですがどうでしょうか」
「……え……た、大変大人びていらっしゃると思います」
「むふー!」

 あ、大人っぽいと褒められたかったのですね。
 か、可愛い……。
 ドヤ顔可愛らしい。

「どうせ兄はもう王族の寝所には入ってこれないのです。ここの結界に弾かれるので」
「結界に? ええと、でも」

 私たちは入れるのに?
 お父様も。

「お二人には臨時でぼくらが許可を出したのです。王族の寝所の結界は、勇者の血の者が張る結界なので」
「そうなのですか」

 王都を守るのは聖女の結界。
 王族の寝所は、勇者の……。
 ヴォルティス様を倒した、初代聖女様の夫である初代国王であり、勇者。

「しかし、それではニコラス殿下も入ってこられるのでは?」
「お兄様はお父様が拒絶をしているので入ってこれないです」
「なんと」
「あ、聖女様、これを見てほしいです」
「え、あの、あ……」

 パッと顔を上げて、私の手を掴むと「こっちこっち」と引かれる。
 な、なんというか、しっかりしてらっしゃるけどこういうところはとてもお子様っぽい。
 可愛らしい……うふふ。

「これ!」
「……っ! これは」

 寝所の天井に描かれているのは竜。
 紫色の竜が、下から上に生えた紫水晶に囲まれて火を噴いている。
 なんという凛々しいお姿!

「聖女様、竜は……ヴォルティス様は本当にこんな姿なのですか」
「! はい、最初にお会いした時は本当に大きくご立派な、このようなお姿でしたよ」
「わあー……!」

 キラキラと瞳を輝かせて。
 カッコいいですよね、と言うとルセル様は「カッコいいです」と頷いてくれる。
 ああ、可愛らしい……。
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