隣の席に座るヤンキー男子の癖は甘噛みです


 短い沈黙の時間、私たちはお互いに口を噤んでる。


 私は相変わらず、彼と視線を合わせることができてない。

 でも、背筋を正して顔を上げ、ヘアピンで前髪をサイドに振り分けてる。

 黒縁のメガネは前を向いてるけど、目線は下げたまま。


 私は体をクネクネさせて、ちょっと落ち着きがない。

 そんな沈黙の時間を止めるように、若林くんが静かに口を開いた。


「浅野花織」


「はい……」


 いままで地味子あつかいだったのに、いきなり本名って……ドキドキするよ……

 胸元で両手を握る私の手に思わず力が入ってしまう。


「いろいろとサンキュー、感謝してるぜ……」


「そんな……」


「すごく頑張ってくれたんだってな」


「……」


 担任教師から聞いたのかな?

 若林くんが復学できるように、クラスメイトみんなでお願いしたこと……



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