孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「ち、違うって」


私は慌てて首を横に振った。
なんと答えるか、一瞬考えてから。


「中学時代の同級生。……最近久しぶりに再会して。ご飯でもどうかって」


モゴモゴと言い淀んだ。


「わざわざクリスマスに? ってことは、うちで働く医療従事者?」

「え」

「出会いも恋愛の機会もないって嘆く霞が、職場以外のどこで、人と再会するのよ。相手も、クリスマスに無関心な同業者でしょ?」


鋭い推察に、返事に窮す。
その反応が、答えとして十分だったようだ。


「中学の同級生と、十年以上経って同じ病院で働くとか。世界は狭いねえ」


操は一人納得して、うんうんと頷きながらパソコンを操作し始めた。
相手の性別とか、どの診療科の人とか、深く追及されないことにホッとして、私も記録に戻った。


『経鼻・経蝶形骨洞内視鏡下下垂体腫瘍摘出術』


モニターに展開した電子カルテには、正式術名を記載してある。


執刀医 霧生颯汰
第一助手 瀬能(せのう)(はじめ)
外回り看護師 茅萱霞
器械出し看護師 中谷彩香(あやか)


スタッフの氏名まで入力した手術記録を、ジッと見据える。


操に言ったことは、嘘ではない。
最近久しぶりに再会した『中学時代の同級生』。
それは霧生先生……いや、霧生君のこと。
彼は、中学三年生の時のクラスメイトだ。
< 16 / 211 >

この作品をシェア

pagetop