愛人でしたらお断りします!
さよならの序章


次の週、定例となっている蒼矢がKUGAコーポレーシに行った日の夕方。
椿ひとりの社長室に、天野聡志と拓真がやってきた。
まるでこのタイミングを見計らっていたようだ。

帰り支度を始めていた椿はふたりを見て面食らった。
会社を去って半年になるが、ますます聡志はギラギラと脂ぎってきたように見える。
拓真はその横で、顔色悪く項垂れていた。

「やあ、椿。元気そうじゃあないか」

機嫌良さげに聡志が話しかけてきた。

「叔父さん……いきなり会社に来るなんて、どうしたんですか?」
「ちょっと、お前に話があって」
「話って?」

椿は救いを求めるように拓真を見たが、彼は項垂れたまま顔を上げない。
取り敢えず、応接セットに座るようにふたりを案内した。

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