婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
光明 side

俺の中のドロドロした感情が渦巻き、兄さんに対する妬みばかりが大きくなる。

元々、仕事人間だった兄さんだ。

蛍のことを一番に考えているはずがない。

ずっとそう思っていたのに━━━━。

「蛍、お疲れ様。本当にありがとう、ゆっくり休めよ。愛してる」

開いた扉の隙間から、蛍にそう声を掛ける兄さんの姿を見て、まだ俺にもチャンスがあるんじゃないかなんていう淡い期待は、打ち砕かれた。

俺が、もう少し早く蛍に出会っていたならば。

兄さんより優れたところがあって、何事においても俺の方が優れていたならば。

蛍は、俺のことを選んでくれたのかな。

そんなタラレバを思いながら、俺は静かに涙をこぼした。

「蛍のこと、幸せにしなかったらぶっとばす」

病室の前で小さくそう呟き、俺は生まれたばかりの赤ちゃんを交えた家族3人で、幸せな時間が流れている病室から遠ざかった。

「光明、目が赤いじゃない。どうしたの?」

「なんでもないよ。母さん、俺もそろそろお見合いして奥さん見つけなきゃだね」

「あら、赤ちゃん羨ましくなった? いいわよね、赤ちゃん」

「あぁ、可愛いよね」

赤ちゃんが羨ましいんじゃない、蛍との子を持つ兄さんが妬ましいだけだ。

その時、ふと俺の頭の中にある考えが浮かんだ。

そして、誰にも気づかれぬようほくそ笑んだ。
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