婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
家に着いて少しゆっくりしていると、買い物から戻ってきた智明があるものを取り出した。

「名前、ちゃんと書いてないと思ってこれ買ってきた」

「わざわざありがとうね。智明は字が綺麗だし、智明が書いてよ。あ、でもこれって私たちが勝手に書いちゃっていいのかな?」

「俺も色々調べたんだけど、祖父が書いたりするところもあるみたいだけど今は親が書く場合もあるらしい」

「そっか、じゃあ尚更智明が書いてよ」

智明が買ってきたのは命名書。

家に帰ってゆっくり書こうということで、病院には飾っていなかったのだ。

「明将寝てるし、今のうちに書いちゃう?」

「あぁ、そうしよう。命名書なんか書いたことないから手が震える」

「あの緊張知らずの智明でも手が震えるとかあるんだね」

「当たり前だ。自分の息子の命名書に緊張しない親があるか。ちなみに、蛍との婚姻届を出す時も手が震えていた」

「えっ、そうなの」

婚姻届出してから今まで知らなかったから、すごい驚いた。

「よし、書くぞ」

「よろしくお願いします」

智明が小学生の頃に使っていたという習字セットをわざわざ自宅から持ってきて、緊張した面持ちで筆を握る。

あまりの真剣さに、私は固唾を呑んで見守った。
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