"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
「あの子は本当に人を振り回すんですよ」

「あ、樋口さん、照れてますね。でも、見かけは今時の女子高生かもしれないけど、りりちゃんて素直で可愛い子ですよね」

「そうですね、坂口さんは根は素直な良い子です。美術展の数々の賞も受賞している美術部のエース的存在で、皆を引っ張っていく存在です。何とかして、夢を叶えてあげたいです。もちろん、萌実さんの夢もね」

照れくさそうに言ってはにかんだ笑顔を見せた樋口さんにキュンと胸が高鳴り、そっと手を繋ぐ。

「め、萌実さん! 手を繋ぐのは生徒に見られたら……!」

慌てていてドキマギしている樋口さんが可愛い。

「秘密の関係ってドキドキしますね。人通りが少ない裏路地を通って帰りましょ」

樋口さんの右手を引っ張り、裏路地へと進んで行く。駅前から自宅、その先が樋口さんの住むアパート。樋口さんは学校までは自転車で通っている。弁当を買いに来る時は一旦帰ってから散歩がてらに歩いて買いに来る日もあれば、そのまま学校帰りに自転車で来る日もあったと後々になってから聞いた。樋口さんが文庫本を忘れた日は雪予報だったので、歩きで学校まで行ったらしい。多少、遠いけれど行けなくはない距離。

大人になっても歩いてデートするのは良いな。ゆったり感がある。日に日に、樋口さんと居ると気持ちが落ち着いている自分がいる。相性が良いのかもしれない。

「秋吾さん、これからもよろしくお願いします」

「め、萌実さん、今、何と言いましたか?」

「え? 秋吾さんとお呼びしましたけど?」

「……嬉しくて泣きそうです」

秋吾さんの顔を見たら、今にも泣きそうだ。純粋で、自分の気持ちに真っ直ぐな人。秋吾さんは涙腺弱いのだろうな。

「うぅっ、めぐ、みさぁあぁん!」

……本当に泣いてる。大の大人がこんな場所で大泣きしてしまった。名前を呼んだだけで大泣きしてしまうなら、これから先にもっと嬉しいことがあったらどうなってしまうのだろうか。

「とりあえず、拭いて下さい……」

「ありがと、ござい……ます、っうぅ、」

私はハンカチを取り出して秋吾さんに渡す。

秋吾さんと一緒にいる事が当たり前になってきて、最近は心地が良い。こんな関係を末永く続けられたら良いなと思った。
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