君しかいない
 自室でルームウェアに着替え、猫足チェアに腰掛ける。輸入家具で揃えられた部屋は統一され豪華だけれど、フローリングの床に寝転ぶこともできなくて少し勝手が悪い。
 廊下からドアをノックされ「どうぞ」と答えると、静かにドアが開き成瀬がわたしの元へやってきた。

「真尋様、足湯のご用意ができました」
「ありがと」
「ではハウスキーパー兼料理番の若林さんをお部屋へ……」
「成瀬がいい」
「なりません」
「どうして? 成瀬はわたしの執事でしょ、足湯は執事の管轄外だとか言い出すつもり?」
「いえ。足湯とはいえ真尋様は女性ですので、同性である若林さんの方がよろしいかと」
「わたしが気にしないならいいのよね? なら成瀬がいい」
「……承知しました」

 わたしの足元に跪いた成瀬は着ていたスーツの上着を脱ぎ、綺麗にアイロンがけされたシャツの袖を捲り視線を上げた。
 長身の成瀬を見下ろすことが稀だからなのか、それとも成瀬が部屋にくるまでの間昔のことを回想していたからなのか。視線がぶつかった瞬間、胸がドキンと跳ねる。
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