君しかいない
 夢中で走りタクシーをつかまえ乗り込んだけれど、ドライバーからバックミラー越しにジロリと眺められ我に返った。
 髪は乱れボロボロになっている洋服、誰から見ても今のわたしは襲われて逃げている人そのもの。
 帰るに帰れない。こんな格好で東堂の家へ戻れば、みんなに心配をかけてしまうし事の経緯を話さなければけなくなるだろう。
同僚の仲間とは、わたしが社長の娘ということを無しにして仲良くしてもらっているけれど、職場以外での付き合いなど殆ど無いため助けてもらうには躊躇してしまった。
 タクシーが停まり、降り立った先は成瀬のマンション。結局わたしが頼ることができる相手は成瀬しか考えられなかった。
 翔斗さんに言われた通り、わたしは成瀬がいないと何もできない。

「真尋様!」

 成瀬のマンションへ向かう途中、車内から連絡をしておいたからなのか。タクシーが着くよりも先にエントランス付近で待ってくれていた成瀬がわたしに気づき駆け寄ってきた。
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