婚約破棄から始まる恋2~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「イヤ、それだけはイヤ。イヤよ」
涙で濡れた瞳で追い縋るビビアン様。
力の限り掴んだ鉄格子が揺れてガチャガチャと音を鳴らす。その様子を静かに見つめるわたしたち。今となっては何の感情も浮かんでこない。
しばらく眺めたのちにくるりと背を向けて出口へと歩いていく。
「ディアナ。助けて。お願いよ。助けて」
やっと存在に気づいたのか去りゆくわたしに助けを求める声。彼女の悲痛な願いは冷え切った心にちっとも響かない。
「ああ、そういえば……『フローラさえいなければ、わたくしがレイニー殿下と幸せになれたのに』って言ったそうね」
ふと振り返り思い出したように投げかけられたアンジェラの言葉にしばし時間が止まる。
空白の時間。
少しの間固まっていたビビアン様の顔から血の気が引いていく。見開いた目が嘘でないことを物語る。
「それがメイドの犯行の真の動機よ」