赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


午前中に沢井さんが訪問したということや、最近どこか様子のおかしかった美織を思うと、仕事を終えてからなどと悠長に考えてはいられなかった。

あの事件だけをすっかり忘れている美織が叔父と遭遇して記憶が揺すぶられる可能性を危惧していたが、どうやら杞憂に終わらなかったらしい。

部屋を出る際、里美さんから今の美織の状態を簡単に説明され、思わず顔をしかめていた。

できれば、あんな記憶は美織に思い出して欲しくなかった。

助手席に乗った美織はやけに静かで、どんな感情を抱えているのかが読み取れない。

いっそ昔のように泣きついてきてくれれば抱き締められるのに、いつからかできた距離がもどかしかった。

「里美さんから、事件のことを思い出したと聞いた」

信号待ち。ブレーキを踏みながらチラッと視線をやると、美織は膝の上で握った手を組み替えながら頷いた。

「はい。思い出しました。たぶん、全部」

ゆっくりとこちらを向いた美織が続ける。


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