赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
ただ、幸せだと疑わずに匡さんの隣で過ごせたらそれでいい。
そう自分に言い聞かせている私を知る由もない相葉くんが「結局、美織さんだって気になってるんじゃないですか」と半笑いで言うので、口を尖らせた。
「いいの! 私は匡さんと結婚できただけで幸せなんだから」
「幸せ幸せって、なんか自分に言い聞かせるための呪文みたいっすね。普通、そんなに声にする単語でもないと思うんですけど、わざと口に出して自分に呪いでもかけてるんですか?」
心臓がギクリとして声を失う。
目に見えてうろたえた私に呆れたようなため息を落とした相葉くんは、仕事に戻りながら口を開く。
「一方通行でいいなんて意地張ってないで、素直に想い返されたいって言えばいいのに」
「匡さんに想い返してもらうなんて、そんな恐れ多い……」
「夫婦なのに何言ってるんですか。想い返して欲しいって思うのは、強欲でもなんでもないと思いますよ。むしろそれが健全じゃないですか? 相手に気持ちがなくても一緒にさえいられればそれでいいなんて、どっかこじらせてるかマゾですよ」
相葉くんが呆れたように言った言葉に、またしても心臓を貫かれていた時、後ろから声がかかった。
「美織様。そろそろ冷えてきましたので、お部屋にお入りください」
振り向くと、使用人の中心である滝さんが少し膝を折って私を見ていた。
今は四月だし時間はお昼前だ。気温は下がるどころかこれからどんどん温かくなるのに、私が庭先に出ていると、一時間も経たないうちに必ずこうして声がかけられる。