さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
02*雲竜の亜賀座
 夏休みの補習もやっと三日目。

 あと一日我慢すれば、残りの三日はまとめのテストだって武田先生は言っていた。マンツーマンで叱られながら授業を受けるより、テストの方が余程いい。

 まあ、そのテストで最低ラインを越えていなければ、いよいよ進級も怪しくなってくるらしいが……

 その日、昼に補習が終わり教室で一人帰り支度をしていると、珍しく弘人が顔を出した。


「――やあやあ! 赤点総長、調子はどうだ?」


 ……ムカつく! ふざけた挨拶の最後に『(笑)』って文字が隠せてない。

 後で絶対ブッ飛ばす。


「……何だよ、弘人。からかいに来たなら今すぐ帰れ!」

「まあまあ、そう言うなって」


 弘人はニヤニヤしながら、さっきまで先生が座っていた俺の目の前の席に座った。俺はそれを無視して、教科書とノートを鞄の中に乱暴に放り込む。


「――『雲竜(うんりゅう)』って族、知ってるか?」


 唐突な弘人の問いに首をかしげる。


「うんりゅう? いや、聞いた事も無いな……」


 自分は風吹みたく全ての族を把握しているわけでは無い。だが総長という立場上、結構な数の名前くらいは知っている。

 それでも初めて聞く族の名だった。
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