さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 夜が迫ってきている。夕方のオレンジ色の陽の光が、早足で夜の色に変わっていく。通りの街灯がポツリポツリと灯り始めた。昼間の熱気がこれから、夜の闇で少し落ち着くだろう。

 門の柵を挟んだ向こうにいる藍乃の顔の影が、さっきよりずっと濃くなっている。深く俯いてしまっていて、もう表情は見えない。怒っているのか、泣いているのか……

 すると、俺たちの言い争いが聞こえたのか、ガチャリと玄関扉が開けられた。


「――どうしたの、藍乃? 誰となにを騒いでいるの」


 出てきたのは、藍乃の母親。俺に気がつくと、あら! と声を上げた。


「もしかして、凪くん?」


 俺はペコリと会釈をした。久しぶりね、と言ってくれたが、あまりいい表情ではなかった。

 俺が不知火に入った頃からだろうか。おばさんは俺と藍乃が一緒にいる事を嫌がるようになった。

 当然といえば当然だけど……


「二人共あまり玄関前で騒がないで。近所迷惑よ。藍乃、お父さんもうすぐ帰ってくるから、中へ入りなさい」


 藍乃は少し迷っていたようだが、もう一度母親に強く促されると、何も言わず家の中へ入ってしまった。

 ドアが閉まる直前、こちらを振り返った顔は、泣き出しそうな目をしていた……
















< 49 / 138 >

この作品をシェア

pagetop