さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉


「昨夜、藍乃と電話がやっと繋がったの。何にも話はしてくれなかったけど、藍乃……泣いてた……電話の間中、ずっと泣いてたんだよ……」

「……あいつは、すぐ泣くからな。何かして親にでも叱られたんだろ」


 俺がわざと茶化すと、奈央はムキになって否定した。


「違うよ! 凪先輩も分かってるんでしょ?! 藍乃にはきっと何か理由があるんだよ! 藍乃を信じてあげて!」

「……何も話さない、あいつのどこを信じればいいんだよ? お前にもたぶん、何にも話してくれてないんだろ」

「それはそうだけど……」


 言葉に詰まり黙ってしまった奈央に背を向ける。


「――弘人、奈央を連れて、準備してる風吹たちを手伝ってやってくれ」


 弘人は頷き、まだ何か言っている奈央を出入り口の外へ押し出した。だけど自分も出てゆく瞬間、くるりと振り返る。


「なあ、本当にこれでいいのか?」

「なにが……」

「いい加減、素直になれって事だよ」

「どういう意味だよ?」


 弘人はワザとらしく大きなため息をついた。


「お前も藍乃ちゃんも、ムダな意地張り合いやがって! 振り回されてる周りの事も少しは考えろ!」

「俺は意地なんて張ってない!」

「無自覚か……尚更、たちが悪い」

「な……!」

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