真田、燃ゆ

 慶長二十年、旧暦五月七日。

 真田勢は押し寄せる徳川の大軍に向け、最後の突撃を敢行した。

 それは、消え行く戦国武者の最後の咆哮にも似た、戦国の掉尾を飾る血と叫喚の一大絵巻だった。

 全員赤い戦鬼と化した真田に比べ、半ば官僚化していた徳川軍にその鋭鋒を禦ぐ手立てはなく、家康の直衛部隊は粉砕され、時代を司る絶対的支配者である筈の家康は、ただ醜く逃げ惑うだけだった。

 三方ヶ原の戦より、絶えて倒れることの無かった家康の馬印は泥濘に打ち捨てられ、逃げ惑う家康は、絶望して二度も自害を試みた。

 徳川の数分の一にも満たぬ寡兵で、幸村は其処まで家康を追い詰めたのだった。

 だがその力闘も、時代そのものを変えるには至らなかった。
 
 果てなく押し寄せる徳川方の波に呑まれ行くように、真田の手の者は討たれ、幸村も自らが望んだように、戦場の一隅でその生を終えた。
  
 戦国から太平の世へ移り変わる刻の狭間を、抗うように駆け抜け、眩い閃光と共に消えて行ったその男を、やはり精強を以て知られた薩州島津家は、このように書き記し、称揚した。


『真田、日本一の兵(つわもの) いにしえの物語にも是無き也』







          [完]
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