契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「気になっている子がいるんだけどさ、その子が俺とは身分は違い過ぎて無理って言うんだ」

「は?」

 てっきり仕事の話だと思っていたから、随分と間抜けな声が出てしまった。だけどそれに気づかなかった篤は続ける。

「何回もそんなの関係ない、大切なのは俺たちの気持ちだって言っても聞く耳持たずでさ。でも、相手も絶対俺と同じ気持ちだと思うんだ!」

 だめだ、話についていけない。そもそも篤に好きな子がいること自体初耳だ。篤はそれに気づいて話しているのだろうか。

 とりあえず口を挟むことなく相槌を打った。

「それなのに身分ってなんだよって思ってさ。……父さんのあとを継ぐことは目標だったし、実際に就いた今も仕事が楽しくて毎日が充実している。だけど好きな子にそれが理由で俺を受け入れてもらえないと、なんのために継いだんだろうって思っちゃったりしてさ」

 大きなため息を漏らす篤を見るに、相当相手に入れ込んでいるようだ。

 だけど今の俺なら、篤の気持ちが痛いくらいわかる。

「たしかにどれだけ好きだと言っても、相手に伝わらないとつらいよな」
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