契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「お前には関係ないだろ? 泊めてやるから、風呂にでも入ってこい」

「えぇー、俺はもっと凪咲ちゃんと話がしたいんだけど」

「明日も仕事だから、凪咲はもう送っていく」

 残念がる篤さんの背中をぐいぐいと押し、ドアへと追いやる。

「わかったよ、じゃあ凪咲ちゃん今度またゆっくり会おうね」

「あ、はい」

 返事をすると、篤さんは「またね」と言いながら手をひらひらさせて出ていった。篤さんが廊下を進み、浴室に入った音を確認して誠吾さんはため息交じりに言った。

「篤が言っていたことは気にしないでくれ」

「えっ?」

「凪咲の気持ちを大切にしたいと思っているから。もちろんこれからも凪咲に好きになってもらえるよう努力は続けるけどな」

 少しだけ切なさを滲ませて笑う誠吾さんに、ズキッと胸が痛む。

 もうそんな努力を続ける必要なんてないのに。でも今ここで想いを伝えたって、きっと父のことで協力してもらうから気遣って言ったんじゃないかと勘違いされる可能性もある。

 なにより私がすべて解決してから真っ直ぐに誠吾さんに想いを伝えたい。
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