契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「それはですね、今は勤務中ですし公私はしっかりとつけるべきだと思うからです。なのでどうか鮎川と呼んでください」

 これまでにも何度か同じことを彼に言ったことがある。その時は「わかったよ」と言ってくれるんだけど、次会った時にはすっかり忘れてしまっているんだ。

「あぁ、そうだった。ごめんね、俺の中で凪咲ちゃんはもう凪咲ちゃんになっちゃっているんだよね。でもそうだな、この前もあいつに気安く呼ぶなって言われたところだった」

「あいつ、ですか?」

 気になるワードを聞き返すと、館野キャプテンはわかりやすいほどハッとした。

「あ、いや! なんでもないんだ。わかったよ、じゃあこれからは鮎川ちゃんって呼ぶことにしよう」

 それもそれで、親しみがこもっていると思われそうだけど、凪咲ちゃんよりはマシだよね。

「では鮎川ちゃん、今日も頑張ろうか」

「はい、よろしくお願いします」

 今日は那覇に向かった後に大阪へ行き、羽田に戻るシフトとなっている。

 一日平均三~四便に搭乗するんだけど、到着後に次の便が一時間以内に出発って場合もあるから、その時はかなり忙しい。
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