契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

「お疲れ様。真琴もスタンバイ？」

「ううん、朝一で大阪にいって帰ってきたところ。二時間空きで午後から福岡往復便に搭乗する予定。ちょっと話したいことがあって凪咲を探していたらここだって聞いてきたの」

　真琴は買ってきた珈琲を飲み、周囲を見回してから顔を近づけてきた。

「凪咲、大変なことになっているよ」

「大変なこと？」

　オウム返しした私に真琴は神妙な面持ちで話し始めた。

「真田さんと凪咲が浮気しているとか、凪咲が実は真田さんの奥さんなんじゃないかって噂が流れているの」

「うそっ……！」

　思わず大きな声を出して立ち上がってしまった。すぐさま真琴が私の腕を引いて座るよう促す。

「シーッ！」

　一気に注目を集めたことに恥ずかしくなり、急いで腰を下ろして背中を丸める。

「ごめん。びっくりしちゃって……」

　まさかそんな噂が流れているなんて夢にも思わなかった。いや、でもそんな噂が流れるのは時間の問題だったのかもしれない。