一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方

その16. 解禁の勧め

 昼二時前の駅構内。健斗はエスカレータを上がると立ち止まり、前方の改札口を眺めた。

 今日は十月最初の土曜日。天気も良く、絶好の行楽日和だ。海浜公園やイベント会場のあるこの駅は、レジャー施設を利用する人たちで賑わっている。もちろん健斗もその一人で、公園に併設されたバーベキュー会場に向かうため待ち合わせをしているところだった。

「来たな、ケンケン」

 改札を抜け、駅のエントランスに立っている三人を見つけ近寄ると、それに気が付いた陽平が手を振ってきた。集合時間の五分前にはたどり着いたというのに、健斗が最後の一人だ。

「みんな、早いな」
「俺も来たばかりだよ。で、こちら理恵ちゃん。美晴さんの会社の後輩」
「陣内 理恵です。この間は演奏会に来てくださって、ありがとうございます」

 来たばかりと言いながらすでに自己紹介を済ませ、なおかつ健斗にその相手を紹介までする、陽平の手際のよさに感心する。

「井草 健斗です。どうも」

 理恵とは先日会ったとはいえ、遠目に会釈しただけの間柄だ。しかも演奏会では黒のドレス姿だったが今は行楽仕様なのか、Tシャツ、デニムパンツに大き目のコットンシャツを羽織るというラフな格好で、健斗にとってはまるきり別人に見える。そんなほぼ初対面の相手に気の利いた会話が浮かばず、とりあえず前回と同じくらいの距離感で挨拶した。

「健斗、愛想忘れている」
「え?」
「わぁ、確かに」

 陽平に指摘され、自分の素っ気なさに初めて気が付く。だが、謝るよりも先に理恵に納得されてしまった。

「さすが美晴さん、なかなかに手強いのを手なづけましたね」

 隣に立つ美晴に声をかけると、理恵はそのまま彼女の腕にしがみついた。美晴もTシャツにカーディガン、コットンパンツと、こちらも理恵同様にカジュアルだ。

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