凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 私、松本(まつもと)紗衣は大手カフェチェーン、チェリーズコーヒーに勤める二十八歳。この春、ここ若月総合病院内店舗に異動になり、週明け月曜日の明日から初出勤だ。

 若月総合病院は、病床数が三百以上あるこの地域でも大きな病院。チェリーズコーヒーのほかにもコンビニが入っていて、入院患者やお見舞い客、地域のお客様にも好評だそうだ。 
 ちなみに祖母は、チェリーズコーヒーの人気メニューであるバームクーヘンの大ファン。

「松本さん、検温の時間ですよ」

 看護師さんがやってきたので、私は邪魔にならないように部屋の端っこに寄り一礼した。

「あら、もしかしてご自慢のお孫さんですか?」

 私を見た看護師さんは、パッと顔を明るくする。
 自慢のお孫さん……?

「そうそう、この子が明日から一階のカフェで働く孫の紗衣よ。たったひとりの自慢の孫でねぇ。看護師さんもぜひカフェに行ってあげてちょうだいね」

 検温し、脈を測ってもらいながら祖母は、「バームクーヘンが美味しいから」などと更に宣伝した。

 看護師さん、お仕事中なのにこんな身内の話をされて困ってるだろうな……。

「いつもお世話になっております。今後は祖母共々、よろしくお願いします」

 ばつが悪くてぎこちなくお辞儀をした私に対し、看護師さんはニコニコ顔をこちらに向ける。

「ええ、休憩時間にでも気分転換に美味しいコーヒーとバームクーヘンをいただきに行きますね」
「ありがとうございます」

 強引に勧誘したみたいで申し訳なくて、私は亀みたいにひょこっと首を動かしてお辞儀をした。
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