凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
4 すれ違うふたり
 夕飯を食べて行ってと祖母が引き留めたけれど、柊矢さんは断って祖母宅をあとにした。
 
 帰宅してから、祖母と叔父に柊矢さんとこうなった経緯を聞かれ、レストラン・イリゼで出会ったと話した。さすがにそのあとの出来事までは、正直に話せず胸の中にしまったままだけれど。

 最初はただただ驚いていた祖母も、自分がキューピットだとか言い出してとても喜んでくれたし、叔父もまた柊矢さんに会いたいと言っていた。

 妊娠しているかもしれないということは、きちんと確認してからふたりに話そう……。

 大事をとってお休みをもらった翌日。
 朝トイレに行った私は、驚いて「あっ」と小さく声を上げた。

 一週間遅れで生理がきたのだ。

「……妊娠、してなかった……」

 心の中にぽっかりと穴が空いたような気分でぽつりと呟く。

 じゃああの体の不調は、妊娠の兆候ではなく、ただの体調不良だったんだ……。
 ホッと安堵したような、がっかりしたような、色々な感情が混ざり合った複雑な気分。

 私はトイレを出るとすぐにスマホを手に取った。
 誤解させたままだとよくないから、早く柊矢さんに知らせたほうがいいよね。きちんと確認もせずに話してしまって、かなり自己嫌悪だ。

 けれど、メールで済ませていいのだろうか。自分でもまだ心の整理がつかない私は、しばらく悩んだ末に“伝えたいことがある”とメールをした。

 仕事が終わった夜にでも電話をくれるかもしれないなと思い、スマホをテーブルに置いた直後、着信音が鳴った。

「え!」

 まさかこんなに早く反応があるとは予想もしていなかったので、私は心を落ち着かせて電話を受けた。
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