先輩からの卒業
「なぁ、奈子。筆箱忘れた。なんか書くもの貸して」
授業中、隣の席からチョンチョンと人差し指で腕を突かれる。
学生が筆記用具も持たず学校に来るなんて一体どういうつもりだろう。
仮にも私達は受験生なのに。
なんて思いながら隣に座る彼の机の端にそっとシャーペンと消しゴムを置いた。
「サンキュー奈子」
そう言うとシャーペンを何度かカチカチと鳴らし板書を始める三宅先輩。
私が隣に座る彼を“先輩”と呼ぶには理由がある。
それは、彼が本来なら昨年卒業していた1つ年上の生徒だからだ。
新クラスになって自己紹介をする時、「皆より1つ年上だけど先輩扱いとかしなくていいんで、仲良くしてください」三宅先輩はそう言って笑った。
最初の頃はどう接して良いのかわからなかったクラスメイト達。
それもそのはず、三宅先輩がもう1年学校に通うことになった理由が交通事故により出席日数が足りなくなったというものだからだ。