先輩からの卒業


土日を挟んで週明けの月曜日。

私は1限が始まるギリギリに登校してきた先輩に自ら声をかけた。


「おはようございます、先輩」

「…………」

「先輩?」


「え、ああ。おはよう」


私から挨拶をされると思わなかったのか、先輩は一瞬フリーズしたあとそう答えた。

挨拶よりも笑顔なのがまずかったのかな?


バレンタインの日、先輩と話して私はとある結論を出した。


もうあの事故のことは気にせず、昔のように先輩に笑いかけようと。


気にしないと言っても私から罪の意識が消えたわけではない。


私は先輩が望む私、つまり昔のように笑顔で先輩と接することを決めたのだ。


それで少しでも先輩の気持ちが軽くなるのなら、私はいくらでも頑張れる。


「先輩、お兄ちゃんが新しいゲーム買ったの知ってます?」

「え、知らない」

「先輩と戦う前に自分だけひっそりと練習してるんですよ」

「なんだそれ」

「ほら、お兄ちゃんそうしないと先輩に勝てないから」


そう言うと先輩がハハッと笑う。


ああ、最初からこうしてれば良かったんだ。

罪の意識を背負うことで楽になっていたのは私の方だったのかもしれない。

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