ABYSS〜First Love〜
「なぁ、来年もここに来る?」

リオは時々猫みたいに気まぐれにすり寄って来る。

そんな仕草を可愛いと思ってるオレは絶対に頭がおかしいに違いない。

「来年は就活があるからバイトはしない。

それに同じ海では働かないんだ。」

リオにオレを諦めさせないと…
そう思ってた。

「波には乗んないの?」

「すぐに海に行ける環境でもないからな。」

「東京にも海はあるでしょ?」

「オリンピックのサーフィン会場が千葉だったの覚えてないのか?」

「そっか。」

少し沈黙が続くと緊張した。

リオが動くたびに触れられるんじゃないかと怖かった。

触れられたらどうなるか自分でもわからない。

オレはリオがその気にならないように小さな部屋の中で話題を探した。

風に揺れるその飾りが目に入った。

「これ、何?

海の家に沢山飾ってあった。」

「あー、ヒンメリって言うんだって。

作ってみる?」

その海の家にあった飾りをこの前オウスケさんはみんな捨ててた。

アキラさんが持ってきたからだった。

「いや、それよりアキラさん、オウスケさんと別れたの知ってるか?」

「え?」

リオは知らないみたいだった。

「だからアキラさん、最近連絡取れないんだ。
大丈夫かなぁ。」

「アキラさんから言ったらしいぞ。

あんなに好きだったのになんで別れるなんて言ったんだろうな。」

リオはすごく悲しい目をしてた。

「好きだから別れたんだ。
ユキナリさんには理解できないよな?

オウスケさんはアキラさんじゃなくても良かったんだ。

アキラさんはずっとその事に苦しんでた。

自分だけを見て欲しかったんだ。」

リオの目がオレの胸を射抜く。

知ってるよ。

好きでもどうにもならない気持ちはオレにだって。

お前は知らないだろうけど
好きなのに諦めるしかない苦しみをお前は知ってるのか?

「バカみてぇだな。

恋とか愛とか、そんなくだらないものに溺れるなんて。」

それはリオでもアキラさんにでもなくてオレ自身にに向けた言葉だった。

でもリオにはそうは聞こえない。

「最低だな。」

リオはそう言って黙ってしまった。

「じゃ、帰るわ。」

オレは居心地が悪くて早く外の空気を吸いたかった。

この部屋はリオの匂いがキツくて
どうにかなりそうだった。

リオは引き留めて来なかった。

期待してたが、オレには指一本触れなかった。

ホントはまたあんな風にキスして欲しかった。

こんな気持ちにさせたままアイツはオレを呆気なく諦めるのか?

そう思うと腹が立って仕方ない。

アルコールのせいで頭がぐちゃぐちゃになってたんだと思う。

オレは踵を返してもう一度アイツの部屋の前に立った。

インターフォンを何度も押してアイツが出てくるのを待った。

「何だよ?忘れ物か?」

アイツの目は真っ赤だった。

泣いてたクセに素直じゃない。

オレは両手でリオの頬を押さえてキスしてやった。

この前の仕返しだ。

唇を離すと今度はリオがオレを抱き寄せ
その唇を逃さなかった。

逃げようとすると全力で捕まえてくる。

何度もキスされて抵抗できなくなった。

返り討ちに遭うとはこういうことだろう。

身体中の力が抜けた。

「好きだよ…ユキナリ。」

リオがオレの名前を呼ぶたびに身体が熱を持った。

「離せよ。」

オレがまたリオを全力で拒むと
リオはまたオレの名を呼び全身で好きだと言った。

もうコイツの世界から逃げられないと思った。

「リオ…そんなにオレが好きか?」

何度もその言葉を聞きたくて何度も聞いた。

リオはオレを抱きしめて何度も言った。

「好きだよ。オレ…死ぬほどユキナリが好き。」

オレはこの沼に足を踏み入れる。

あと1週間。

リオと過ごせる時間はもうそれしか残ってなかった。

リオとキスした後、すごく気まずかった。

「お前、男と経験あるの?」

勇気を出して聞いてみた。

「男も女もないよ。」

ホッとした。

リオはまだ誰にも穢されてない。

「ユキナリはある?」

「あるわけねぇだろ。」

「そっか。でも女の子は沢山知ってるよね?」

見栄を張るべきだろうか?

でもその嘘は今は必要ない。

「オレ、女も知らないよ。

誰も知らない。恋愛に興味なかったんだ。」

「え?」

「キスしたのもお前が初めて。

オレのファーストキスをあんな風に奪われて
結構ビビったんだよ。」

「え?え、えぇー?…マジか。」

リオはオレを抱きしめて言った。

「嬉しいよ。ユキナリ。

絶対大事にする。」

何だよ。大事にするって。

オレは女の子か?

こそばゆくって、恥ずかしいけど
抱きしめられたリオの胸は心地よかった。

もっと早くこうしておけば良かった。

残された1週間、オレはリオとどう過ごそうか?

リオはまだ知らない。

オレはこの海を去ったら二度とリオには逢わない。

どんなに愛し合ってもこの海を去ったらリオのことは忘れる。

そう思ってることをリオには言えなかった。













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