ABYSS〜First Love〜
暫くしてアキラさんが上京してきた。

オレは駅まで迎えに行った。

人の少ないところが好きなアキラさんは渋谷の賑やかさにやられていた。

「リオ、元気だったか?」

「うん、今夜どうするの?オレのうちに来る?」

そうは言ったけどまたユキナリがヤキモチを妬くだろう。

それを察してるみたいにアキラさんは
個展の会場の近くにホテルをとっていた。

「あー、すげぇ人!帰りてぇ。」

「まだ来たばっかだろ?」

「リオは良くこんな場所で生きてられるな。

海も無いし、サーフィン出来ないだろ?」

オレは競技をやめてから波に乗ってなかった。

前みたいに乗れないと思うと
精神的にダメージを受けそうで
怖かったからだ。

「波は…暫く乗らない。

趣味って割り切れるようになったらまた頑張るよ。」

アキラさんは何も言わずオレの肩を叩いた。

「リオ、なんか美味いもの食わせて。」

オレは良く行くカレー屋にアキラさんを連れて行った。

そこでユキナリと合流した。

「いい男が来たと思ったらユキナリか。

都会で見るとマジでカッケーな、ユキナリ!」

「アキラさんは相変わらずで…」

ユキナリはアキラさんにいつもそっけない。

それはオレのファーストキスの相手がアキラさんだって知った時からだ。

「お前ら上手く行ったんだって?

良かったなーリオ。」

「声デカいって。」

アキラさんが元気そうでホッとした。

「ユキナリ、今何やってんの?」

「あー、オウスケさんの紹介でバーでバーテンダー見習いしてます。」

オウスケさんの名前が出て一瞬、空気が変わった。

「ユキナリ!」

オレはユキナリの無神経さに焦っていた。

アキラさんの前でオウスケさんの名前を出すなんて…と。

「そうか。オウスケさんは元気?」

アキラさんがオレにそう聞くからただ頷いた。

「アキラさん、ここね、バターチキンカレーが最高なんだ!
あとね、このキーマカレーも!チーズトッピングするとさもっと良いんだよ。」

オレは一生懸命話題を変えた。

でもアキラさんの頭の中はやっぱりオウスケさんでいっぱいだった。

「会いに行ったらダメかな?」

アキラさんがその気になってるから
オレはオウスケさんに連絡した。

「アキラさん上京しましたよ。
今夜ユキナリのバーでよかったらオウスケさんも一緒に飲みませんか?」

断られるかもしれないと思ったけど
オウスケさんは
「何時?」
と聞き返してきた。

「9時で。」

「わかった。じゃ夜な。」

アキラさんはその様子を心配そうに見ていた。

「来るって。」

そう言うとホッとした顔してた。

その夜、オレはアキラさんとユキナリの店に行った。

ユキナリはまだ見習いだったけど飲み込みは早いみたいでもうカクテルを作るようになってた。

「いらっしゃい。」

カウンターの前に立つ黒服のユキナリはマジでカッコよくてオレはその姿に見惚れてしまった。

「リオ、目がハートになってるよ。」

とアキラさんが笑った。

オウスケさんはまだ来てなくて
暫く2人で飲んでいた。

少し遅れてオウスケさんはやってきた。

何の躊躇もなくアキラさんの横に座り
「アキラ、元気だったか?」
とその肩を叩いた。

アキラさんが緊張してるのが隣のオレにも伝わってくる。

「元気だったと思います?」

アキラさんはちょっと面倒くさい返事をした。

「だよな。オレと別れて寂しかったろ?」

「オウスケさんはどうでした?」

「そりゃ寂しかったよ。

なんだかんだでお前とは5年も付き合ってたから。」

アキラさんはオウスケさんと別れてから
夏が来てオウスケさんがあの街に戻ってきても
あの海の家には一度も行かなかったそうだ。

なのに2人の会話は3年ぶりに会うとは思えないほど軽快だった。

「帰ってくるか?」

オウスケさんはそう聞いたけどアキラさんはまだ悩んでた。

オレにはその気持ちが何となくわかる。

「考えときます。」
とだけ返事をしてた。

本当は飛んで行きたいんだろうけど
またあんな風に苦しみたくなかったんだろう。

その夜、アキラさんはオウスケさんと消えた。

精神的にはオウスケさんのことを許してなくても身体が寂しかったんだろう。

アキラさんは結構拗らせるから
また一度寝たくらいで
ヨリを戻すかどうかなかなか厳しい気がした。

オレは一人残ってユキナリが終わるのを待った。

思ったより女の子の客が多くて
ユキナリ目当てだってすぐにわかった。

ユキナリは仕事だから割り切って
あの無愛想なユキナリが笑顔で話してた。

でもオレにはその姿が不愉快で
ユキナリにはオレだけを見て欲しかった。

店の営業が終わると見習いのユキナリは後片付けと戸締りの仕事ある。

オレはユキナリの片付けを手伝って
ユキナリの帰りを待った。

「じゃあ帰ろうか?」

オレは我慢できなくてユキナリにキスした。

「オレだけ見てよ。
女の子に笑顔とからしくないし、やめてほしい。」

「無理言うな。仕事だってわかってるだろ?

お前だって仕事の時はモデルの女の子と手組んだり肩抱いたりしてる時あるだろ?」

「それは向こうも仕事だからだよ!
でもユキナリのは違うじゃん!

ユキナリは仕事でも相手の女の子は違うだろ?

わざわざユキナリに会いに来てんだぞ!」

どうしようもないこと言ってるってわかってるけどユキナリが女の子にいい顔するのは嫌だった。

「お前ヤキモチ妬き過ぎだよ。」

ユキナリが面倒くさそうに掴んでるオレの手を解いた。

「もういい!」

オレは冷たくされてバカみたいにムキになって店を飛び出した。

ユキナリが追いかけてきてくれると思ってたのに、ユキナリは来なかった。








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