雨降る日のキセキ



他愛もない話をしながら歩いていると、バッティングセンターにはあっという間に到着した。


「ここ、よく来るの?」


「いや、初めて。でも、練習がてらバッティングセンターに来るのは昔からよくあることだな」


今日、急に練習中止になっちゃったもんね…。


「野球、好きなんだね」


中止になってラッキーだと喜ぶ部員の方が多い。


むしろ、中止になったあとにわざわざ練習しようとする部員なんてうちにはいなかった。


だから、素直に思ったことを口にしただけのつもりだった。


「別に好きじゃねーよ」


だけど、意外なことに、千隼くんはそれを否定した。


どこか冷めた目をした千隼くんは、初めて見る新しい千隼くんだった。


「俺は練習しないといけない。甲子園に行かないといけないから」


まるで誰かに課された重荷のような言い方。


甲子園に行かなきゃいけないってどういうことだろう?


「野球が好きじゃないのに?」


「そ。俺にもいろいろあんの」


千隼くんはそう言ってバッターボックスに入っていった。


踏み込んではいけないことなんだな、と直感的に感じた。


“野球は好きじゃない”


そんな人がどうして甲子園を目指しているのか。


知りたい。


千隼くんのことが気になる。


今まで興味がなかったのに、初めてそう思った。
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