雨降る日のキセキ
そのヘッドホンを乱雑に奪ったのは、それまで黙って聞いていた夏菜だった。


「あんたねぇ。簡単に諦めんじゃないわよ」


「あ?」


苛立ちを全面に押し出して夏菜を睨みつける翔吾。


夏菜は気にも止めず話を続ける。


「あんたキャプテンでしょ?チームの顔なんでしょ?そんな人間が諦めムード出すなんてあり得ない。そんなんだから勝てないのよ」


「うるせぇ。お前には関係ないだろ。これは野球部の問題だ」


翔吾がヘッドホンを取り返そうとする。


夏菜はその手を払い除け、捲し立てる。


「あんたも変わったよね。病室で私に話してくれた本音はなんだったの?怪我して本気で悔しかったんじゃなかったの?必死にリハビリ頑張って、ようやく元通り動けるようになったんでしょ?違う?それなのにたかだかチームメートが辞めただけで何なのよ。あんたの熱意ってそんなもんだったの?」


夏菜…。


「…お前は分かってない。千隼がいないことがどれだけ大打撃なのか分かってないから言えんだよ」


「知らないわよそんなこと。千隼くん抜きで甲子園目指せばいいじゃない。あいつを見返してやろうって思えばいいじゃない」


「んな簡単な話じゃねぇっつってんだ!」


やる気を取り戻させるために理想を語る夏菜と、厳しい現実を知っている翔吾。


二人の言い争いが次第にヒートアップしていく。


「俺らのチームにいるピッチャーがどうやって強豪校を抑えんだよ!打撃だって、千隼と俺に頼り切ってるようなチームがどうやって勝つんだよ!何も知らないクセに理想ばっか語ってんじゃねぇよ!」


「現実だけ見てたら夢は叶うの?現実は厳しいからって諦めて何になるの?誰が得するの?頑張れば千隼くんなしでも勝てるかもしれないじゃない!勝てるように努力しなよ!」
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