雨降る日のキセキ

雪解け

「千隼くん。ちょっといいかな…?」


その日のお昼休み、食堂から戻ってきた千隼くんに声をかけた。


緊張で上手く目を合わせられなくて、声も震えている。


それは千隼くんも同じなようで、ぎこちなく二人で並んで廊下を歩くことに。


人通りの少ない渡り廊下にたどり着くまでの数分は、これまでの人生で最も長い数分間だった。


「寒…っ」


2月の冷たい風が吹き抜ける渡り廊下は極寒だ。


上着持ってこればよかった…。


「…着る?」


遠慮がちに差し出されたブレザー。


「…千隼くんが寒いでしょ?」


ワイシャツ1枚の千隼くんから借りられるわけがない。


そう思って断ったのに、千隼は寂しそうな顔をする。


初めて会った日、連絡先を教えることを拒んだあのときみたいに…。
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