【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



「昔から、お利口に育てられた。

……そんな俺の唯一の遊び相手は顔も見えないネット越しの誰かでさ。まつりは割と人を信頼することにうるさいから、そういうのも結構否定的で」



現代に向いてないよね、と稜くんは笑う。

けれどその表情は、綺麗に笑えてはいなかった。



「まつりの母親と俺の母親が同級生で、仲良かったから俺らは幼なじみなんだけど。

そんな風に仲良くするくせに、家だって近くに建てたくせに、俺の母さんの口癖は『白雪(しらゆき)がうらやましい。わたしもああいう人生を歩みたかった』。白雪さんは、まつりの母親ね」



それを身近で何度も聞かされていた稜くん。

そんなの、まるで彼の人生そのものを、否定するみたいじゃない。



「別にね、俺は母さんのこと嫌いじゃないんだよ」



「……ほんとうに?」



口を突いて出た言葉に、自分で驚いた。

でもそれはわたしだけじゃなかったようで、目の前の彼も驚きの表情を浮かべていた。……そんなの、聞き返す必要も、なかったのに。




「唯一頼れる肉親だから。

大事だから、嫌いじゃないって思いたいだけじゃないの?」



一度あふれた言葉はもう、止まってはくれない。

それが冷たい刃となって目の前の彼を刺すことを自覚していても、だ。



「頼らなきゃ、生きていけないから。

自分でそうやって言い聞かせて、気づかないフリしてるように見える」



ぽろ、と。

ひと粒、地面に滴る透明な雫。



「っ、雨? 稜くん、ちょっと急ごう」



「、」



隣にあった彼の手を掴み、言うが早いかその場から駆け出す。

話している間に結構歩いてきたこともあって、我が家はもうすぐそこに見えていた。



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