閉園間際の恋人たち




「今日の写真を見たいの?」
「うん、そうだよ」
「いいわよ。でも周りの人に迷惑にならないように、静かにね?」
「わかった!」

帰りの電車の中、運よく二人並んで座れたので、大和のリクエストも受け入れてやれる。
画像フォルダから今日のページを適当に開いて見せると、大和は隣から小さな指で画面に触れてきた。

「ファンディー、可愛かったなあ……」
「そうだね。いっぱい会えてよかったね」
「うん!琴ちゃん、ありがとう」
「大和がいつもいい子にしてるからだよ」
「じゃあ、ぼく、あしたからもっといい子になるよ。そうしたら、また、あのお兄ちゃんにも、会えるよね……?」
「お兄ちゃん?」
「ほら、この、お兄ちゃん……」

大和はあの騎士のダンサーとバックヤードで撮った写真に指を止めた。
ファンディーよりも会いたいだなんて、相当このダンサーのファンになったようだ。
アクシデントがきっかけだったけれど、大和にとっては結果的にいい出会いになったようで、もしかしたらこの出会いは、大和の母親が天国から届けてくれた誕生日プレゼントなのかもしれないなと思った。

「……ねえ大和。もしかしたらこのお兄ちゃんと会えたのは、大和のお母さんが……」

けれどその先は、言葉が続かなかった。
隣からは、スゥスゥ…と可愛らしい寝息が鳴りはじめていたからだ。

無理もない。
これだけ大はしゃぎしたら、あっという間に充電切れだろう。
私はスマートフォンの画面から大和の指をそっと離し、肩を抱き寄せて私にもたれさせた。
その重みはほとんど感じないくらいに軽いのに、信じられないほどに愛おしい。
実の母親でない私でさえそう感じるのだから、間違いなく、亡くなった親友の息子への愛情は、今のこの愛しさとは比べようもないはずだ。
そもそも、比べることなどできるはずもないのだ。
大和にとっての母親は彼女ただ一人。
私は母親にはなれない。
だけど明日からも、大和と日々を重ねていくのは、私なのだ。

「……ん…」

大和が身じろぎして、私の膝に頭を乗せる。
反射的に私はスマホを持ち上げて。

「……王子様みたい……ふふ……」

小さな寝言は、おそらくすっかり虜になったあの騎士のダンサーのことだろう。
早速夢で再会を果たせたようで何よりだ。
私は大和の髪を撫でながら、持ち上げたスマホの画面に映し出されている騎士と大和の写真を眺めた。
やはり、その姿は王子様のようだ。
凛々しく優しく、そしてかっこいい。
彼はまさにおとぎ話の登場人物だ。

「おとぎ話か……」

もし、もしもこの世界がおとぎ話の中だったとしたら、魔法とかも普通にあるのかな。
そうしたら、私の親友も、生き返らせたり、できるのかな……
そんな魔法が、あったら、いいのに……おとぎ話みたい、に………


大和につられるようにして、いつの間にか私もささやかな眠りに落ちてしまう。

けれど頭のどこかでは、そんな夢物語を考えてどうするのと、冷めた私自身もいるのだ。

どうせ私達は、おとぎ話の住人にはなれないのだからと………











< 19 / 340 >

この作品をシェア

pagetop