閉園間際の恋人たち




「琴ちゃ―――ん!」


晴れた休日、私は久しぶりのデートに出かけていた。
デートの相手は5歳の男の子。みなと幼稚園あおぞら組の年長さんだ。
今日は彼の6歳の誕生日で、以前からのリクエストに聞いていた隣町にあるテーマパークにはじめて二人で訪れたのだ。

本日の主役は前日の夕方から既に興奮気味で、早く寝なさいという私のお小言も完全に右から左状態だった。
”朝から晩までずっとパークで遊ぶこと” が彼の夢だったらしく、それを叶えるために私達は朝早くからゲートに並び、開園と同時におとぎの国に飛び込んだわけである。


大和(やまと)、走っちゃだめよ。急がなくても大丈夫だから」
「だけど琴ちゃん、もういっぱい人が来てるよ!ぼく、ぜったいにファンディーと写真とりたいんだ!」

目をキラキラと輝かせて、まるで宝石を身に宿しているかのような眩いばかりの表情を見せてはしゃぐ小さなデート相手に、私は心からの愛おしさがあふれてくる。
けれど休日で開園直後でも混雑がはじまっているパーク内を小さな体で駆けていくのは危険だ。
私は彼の手をきゅっと握り、通行の妨げにならない端に連れて行くと、しゃがんで目線の高さを等しくさせて、こっそりと打ち明けた。

「実はね、大和がそう言うだろうなあと思って、今日のお昼、ファンディーと会う約束をしてきたんだ」

一瞬きょとんとした大和だったが、私の言ってる意味が理解できると、みるみると顔いっぱいの笑顔になる。

「それ本当っ?!琴ちゃん、それ本当なの?ぼく、ファンディーと会えるの?お話できるの?写真も一緒にとれるの?」
「うんそうだよ?会えるし、お話もちょっとだけならできると思うし、写真だって一緒に撮れるよ。だから、今急いでファンディーに会いに行かなくてもいいんだよ」
「やった――っ!ぼく、ファンディーに会えるんだ!」

両腕を思いきり突き上げて万歳のポーズをとる大和に、私はもう一度コソッと耳打ちする。

「でもね、人気者のファンディーと約束ができる人は少ないの。だから、大和が約束してるってばれたら、みんな羨ましがっちゃうでしょう?中には、約束したかったのにできなかった子もいるかもしれない。だから、今みたいに、ファンディーと約束してることを大きな声で言わない方がいいと私は思うの。大和はどう思う?」

すると大和は上げていた腕を下ろし、うーん…と小さな頭を傾げて一生懸命考えている。
そして

「……ぼくも、琴ちゃんと同じこと思うよ。だってもしぼくがファンディーと約束できなかったのに、他の子が約束できてて、それを自慢っぽくしゃべってたら、ちょっと嫌な気になっちゃうもん」

しっかりと胸を張って自分の意見を口にした。










< 4 / 340 >

この作品をシェア

pagetop