クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
今は妊娠3カ月だと言われた。
せっかくはなみずき製菓の仕事が波に乗り始めているのに私から離婚してくださいとは言いにくい。
彼から離婚を言われない限りは継続しなければならないが、ことは重大だ。
約束を違えることになるが彼とは離婚して1人で育てるのが1番だと思った。

なかなか彼に言い出せずにいるが体調の悪さはひどくなる一方。これが悪阻なのだろう。 

離婚しなければならないことはわかっているが、少しでも修吾さんのそばにいたいのも本心。彼のために何かしたいと思うけれどつわりがひどく思うようにならない。
ぐるぐると私の中で整理のつかない感情が渦巻く。もう何がしたいのかわからない。

母が体調の悪さを見かねて家に帰ってくるように言われた。
これが潮時なのかもしれない。

忙しくすれ違いの多い彼には置き手紙を残し、私は荷物をまとめると彼のマンションを出た。

『離婚してください。お世話になりました。美波』

これだけしか書けなかった。
あの日、彼の好きなものを作った時と同じように今出来る私の精一杯の料理と共に離婚届にサインをするとテーブルの上に置いた。

ひとまず必要なものをスーツケースふたつに詰め込み、残りはまた体調が良くなったら取りに来よう。
タクシーに乗り込むと涙がこぼれ落ちてきた。
修吾さんを好きになったらいけなかったのにこんなに好きになってしまった。
この先修吾さんから好きな人ができたから離婚してほしいと言われたら耐えられない。
赤ちゃんができたのは奇跡だ。
私には赤ちゃんがいる。
まだ見た目にはわからないお腹に手を当てると温かい気がして勇気づけられるようだった。
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