君との恋の物語-mutual affection-
演奏家として
打ち上げがお開きになる頃、真里先輩は改めて俺に声を掛けに来た。

「お開きになったら、一緒に出よう」

はいと言わざるを得ない。

いや、別に嫌なわけではないが、どんな話をするのか気になって仕方がなかった。



打ち上げは、団長の挨拶と一本締めで、解散になった。

そこからは二次会に行く人、帰る人と様々だが、俺は真里先輩に引っ張られて早々に会場を出た。

「ちょっと人気のないところがいいな。樋口くん、寒くない?」

まるで彼女を気遣う様だw

『大丈夫ですけど、先輩は大丈夫なんですか?』

そう、むしろ寒さに弱いのは女性の方ではないのか?

「ん、大丈夫。これくらいなら。」




どこに行く気だろうと思っていたら、打ち上げ会場とは駅を挟んで反対側にある割と大きな公園だった。

確かにここなら、歩きながらでも話ができそうだ。

『どうしたんですか?』

俺は、公園に入ったきりすっかり黙ってしまった真里先輩に話しかけた。

「うん、ちょっと、言葉を選んでた。」

なんだ?そんなに言いにくい話なのか?

「樋口くん、今日の演奏会は、彼女も聴きに来てた?」

『えぇ、来てました。』

?

「彼女は、今日の君の演奏をなんて言ってた?」

??

『え?いや、とてもよかったと。』

素直に答えるが、質問の意図がよくわからなかった。

「うーん、なにか具体的なことは言ってなかった?」

…一体この人はどこまでわかってて聞いてるんだろう?

超能力か?w

『僕が、演奏家になるべきだと。』

途端に先輩がハッと顔を上げた。

「うん!それから?」

それから?おおよそそんな感じだけど、あぁ、そうだ。

『演奏家としてのあるべき姿を見た、と』

!!

先輩は、急に俺の方に向き直って俺の両肩を掴んだ。

「そうよ!それよ!」

は?…え?

っていうか…近い…

「樋口くん、今日の演奏は、君自身が感じている10倍くらいはよかった!」

え?

「団員の方々にもわかるくらいだったし、指導者の竹島さんや私、それに客席にいた彼女!つまり、プロやプロに近い目線の人にはすごくはっきりとわかるくらいよかったの!」

なぜそんなに必死なんだ…頭がついて行かない。というか近い。

「いい?樋口くん、今日、彼女に言われた事は、私も全く同じ意見。君は努力だけでは真似できない素晴らしい演奏をしたのよ。」

そう、なのか?正直そこまでの自覚はなかった。

『そうでしょうか?でもそれなら、先輩はもっと』

先輩は、途中から首を振っていた。

「そんなことないわ。少なくとも、今日はあなたがMVP。」

「一緒に演奏した私が言うんだから間違いないわ。あなたは、多分これから竹島さんからも仕事が来ると思う。」

いつのまにか落ち着きを取り戻し、俺の肩からも手を話した先輩は、いつもの微笑に戻っていた。

そんなに上手く行くものか?

「はっきり言って、君は次元が違う。増田くんや、私なんかよりずっと才能がある。」

いやいや、いくらなんでもそれは…

「もちろん、私達だって努力はするんだし、別に卑屈になっているわけじゃないの。」

俺は、無言で先を促した。先輩が、まだ何か言いたそうにしていたから。

「これは、私個人の意見なんだけど…」

さっきまでの勢いが嘘のように、先輩は言いにくそうにしていた。

「樋口君…」

決心したようだ。俯き加減だった先輩が俺の目をまっすぐ見る。

「君は、転校か、留学を考えた方がいいと思う。」




…

………え?


『え?』

驚きのあまり、それしか答えられなかった。

「ごめんね、いきなりで。でも、君の才能と実力は、もっと多くの人の目につくところにあるべきだと思ったの。」

転校?…留学?

あまりに唐突で聞きなれない単語に、俺の頭は珍しくフリーズした。

「大丈夫?」

先輩が俺の顔を覗き込む。

俺は慌てて目を背けた。

『あ、すみません』

先輩はくすくすと笑う。美人すぎる。

「ちょっと急すぎたのと、顔が近すぎたかな?w」

そして急にいたずらっ子の表情。先輩、こんな顔するのか。

「ま、飽くまで私個人の意見だから、聞き流してくれても全然いいんだけど、一度は真剣に考えてみてほしい。」

それはまた強引な。

「………わ」

今のは本当に聞き取れなかった。

『え?なんですか?』

「んん、こっちのこと!それにしても、今日の君の演奏から、(プロとしてのあるべき姿をみた)なんて、彼女も中々いい感覚してるね!」

『結は、すごいですよ。俺よりずっと才能あると思います。だから、正直今日もらった言葉は、嬉しかったですね。』

「私に褒められるより?」

一瞬真剣な表情をする先輩。俺は、何も答えられなかった。

「嘘嘘!からかってごめんね!」

途端にまた明るい表情に戻った。

先輩、ちょっと結に似てるな。でもやっぱり、結より大人だ。

「樋口君、彼女のこと、大事にしなよ?」

『はい。』

「それから、もし留学や転校の相談をするなら、彼女に話してみるのがいいと思うよ」

意外だった。

『そうですか?』

遠距離になる可能性。というのは、あまり言うべきではないのでは?

「うん、君たちの場合はそう!絶対!」

意味深だ。

『それって、どういう…?』

「さて、もう一軒いこっか!」

先輩は、俺の質問を振り切るように先に歩き出した。

っていうか、もう一軒?だとしたらなぜ一度公園に寄ったんだ?


「あ、そうだ樋口君!」

『はい?』

「私に呼び出されて、ちょっと良い雰囲気期待したでしょ?だめだよ?彼女いるんだから!」

いやいやいやいやいや

『そんなことないですよ!って言うか先輩だって彼氏いるじゃないですか!』

「私?私の話はいいの!」

いやいやどう言う理屈なんだ?

「とにかく、頑張りなさい!演奏も、恋愛も!」

??

酔ってるのか?

『はい。』

そうとしか言いようがなかった。

俺は少し遅れて先輩についていった。
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