十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
中野さんとカフェの前で別れてから、私は1人でもう1度、表参道の裏道を歩きながら考えていた。

指輪選びは終わった。
あとは1ヶ月後の約束の日を迎えるだけ。
そうすれば、少し前まで抱えていた悩みは解決する。
それからは、6月のデッドラインの日までは穏やかに暮らすだけ。
その後は、スッキリした気持ちになれると思っていた。

それなのに、再び出会ってしまった。
かつて本気で愛しすぎた人と。
愛しすぎたからこそ、憎んでしまった人と。
感傷に浸る資格が私にはないことは、分かっている。
けれど、たった数分の再会によって、10年間封じ込めていたはずの気持ちが蘇ってしまった。
決して彼に許されないような形で、無理やりな別れを選んだのにも関わらず。
そんな、自分の愚かさを呪いながら歩いているうちに、私は辿り着いてしまった。

春の空色の壁。
カフェモカ色の扉。
そして、「Bella stella」と書かれた看板。
彼が思い描いた、私と出すはずだった、約束の店。
私が……一方的に破ってしまった約束を具現化されたもの。

「本当に、今更……」

まだ、明かりはついている。
この扉を開ければ、きっとまた理玖と会ってしまう。
今の私の立場と、過去に彼にした罪を考えれば、大人しく立ち去るのが正しい。
それは分かっているのに、私の体が動いてくれない。

どうしよう。
どうすればいい。
早く、立ち去らなくてはいけないのに。

そう思っている時だった。

「美空……?」

背後から、声をかけられた。
振り返らなくても分かる。
理玖が、そこにいると。
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