十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
「美空ちゃん」
「……はい……」

私がそう言うと、中野さんが私に袋を見せた。

「それは……」
「俺たちの結婚指輪になるはずだったものだ」

中野さんは、過去形を使った。

「良かったね、君はお父さんとの約束を……守れそうだね」
「中野さん……私……」
「美空ちゃん、私からもごめんなさい」

今度は葉月さんが謝ってきた。

「今回の件は、私たち2人が何とかしないといけないことだった」
「違います!私も……私もちゃんと分かってて……」

分かってたからこそ、この契約結婚に罪悪感を感じなくて済むと思った。
好きでもない人と、親のために結婚をするという罪悪感。
私が好きになれる人は……10年前に別れた理玖だけだと確信があったからこそ、中野さんとの契約結婚の話に乗ったのだ。

「美空ちゃん。この結婚指輪は……俺たちがもらってもいいか?」
「え?」

中野さんはそう言うと、理玖に頭を下げた。

「事情はお聞きになった通りです。俺の大切な部下を、あなたに託してもいいですか?」

理玖は、私を掴む手に更に力を込めながら

「ありがとうございます」

と言った。
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