十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
入籍までにスピードについては……私の場合はすでに父母は亡くなってしまっているので、反対する親戚もいなかった。
むしろ

「これで美空ちゃん、寂しくないわね」

と言ってくれる人もいたくらいだ。
どちらかと言えば私が気にしたのは、理玖の両親だ。

10年前の経緯は知っているだろうか。
知らなかったら、急に連れてきた女とすぐ結婚したいという息子にどんな気持ちになるだろう。
知っていたとしたら、失恋させた女と元さやに戻ってすぐに結婚する息子のことを、咎めたりはしないだろうか。

理玖は

「結婚なんてお互いが良ければいいじゃん」

と言ったが、流石に挨拶なしで入籍はあり得ないと主張させてもらった。

「うちの両親のことなんか気にしなくてもいい」

きっぱり言う理玖。
でも私は、やはり気になってしまう。

「ダメだよ。やっぱりちゃんと挨拶をしないと……」

もし10年前のことを知っていたら、きちんと謝罪をしないといけない……という自分の思いも含めて理玖にぶつけると

「うーん……」

と一瞬悩んでから、私を抱き寄せてからぽんぽんと頭を軽く叩く。
まるで私を落ち着かせるように。

「まあ……見てもらえば、分かるか」
「え?」
「気にしなくてもいいって言った理由」

まるでいたずらっこのような笑みを浮かべた理玖は、そのまま私の手を繋いだままスマホをいじった。

「ああ、もしもし母さん。久しぶり」

なんと、この場で理玖が電話をかけたのは、理玖のお母さんへだったらしい。

「うん……そう。彼女連れて行くから。待ってて」

え、今から!?
そんなことを考えたのが、理玖にはお見通しだったらしく

「善は急げっていうからな。それに」

理玖は、私の手を握っている手に力を込めて

「また逃げられないようにしなきゃ」

と真顔で言ってから、奪うようなキスを唇にした。

「ところで、挨拶終わったら、美空も満足だろう?」
「え?」
「役所行ってすぐに手続きするから。ハンコだけ持って。なければ途中で買うから」
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