十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
「やめて」

それとこれとは、別だ。

「どうして」
「恥ずかしすぎる」

理玖が美大時代にたくさんの裸婦を描いてきたのも知っている。
今でも、人体構造の勉強のためにと、男女問わず裸の絵をトレーニングと言って描くのも知っている。
自分よりずっと美人でスタイルの良い女性の裸に視線を向ける理玖に、複雑な気持ちを抱いたのも1度や2度ではない。
でも……。

「私……絵に残せるような体じゃないから……」

結婚式のために、少しは頑張ってダイエットしたけれど。
余計なお肉は少ししか取れてくれなくて、どうにか矯正下着という魔法のツールでまともにしてもらったのが、昨日の花嫁姿の裏事情。
そしてそんな私の体を、ガラスに触れるような優しい手で撫でてくる男は、ギリシャ彫刻のような極上の顔を体を持っている。

「……私の方が、理玖をスケッチしたい」
「ダメ」

理玖は間髪入れずにそう言うと、私のいただきに唇を寄せた。
他の誰にも聞かせたことのない、私の彼だけの声が、空に向かって放たれる。

「俺はお前を愛するのが先だ」

そう言いながら、私の声が荒くなっていくのを楽しむかのように、胸の膨らみに鎖骨、二の腕、そして手へと、理玖の唇と手が動いてく。
そして最後に辿り着くのは……。

「んっ……理玖……くすぐったいよ……」

私の指先を逃さないようにと、自分の指をしっかり絡めた理玖は、毎回私の指先全てに口づけをしてくる。

「でもお前、俺にこうされるの……嫌いじゃないだろ?」

好きだろ、とは聞かないのが理玖らしいと思った。

「うん……好き……」

でも私が本当に好きなのは

「そうか……じゃあもう1回……」

と、涙が出るのではないかという程顔を歪ませながら微笑む、理玖の顔。

「待って、私も」

理玖の唇が私の手にとられる前に、私が理玖の唇を愛する。
理玖の形の良い唇が、私の舌で舐められるたびに気持ちよさに震えてくれる瞬間が、たまらなく愛おしい。

「美空……こんなのどこで覚えたの?」
「さあ、どこでしょう」

私がごまかすと

「いいよ、体に聞くから」

と言って、私をベッドに押さえつけてから、今度は私の入口を隠す下着を、理玖はゆっくりと下ろしていく。
理玖を求めていた証拠の糸が、きらりと光る。
理玖はその糸を手に取って

「待ってた?」

と意地悪く聞いてくる。

「分かってるくせに……」
「美空の口から聞きたい」

それは、10年。
私が彼を待たせてしまったからこその、彼なりの私へのちょっとした仕返しなのかもしれない。


「……待ってる。今も、この先も、理玖を待ってるの」
「美空……!!」

この私の言葉が合図となり、理玖と私は体をつなげる。
そして、本能丸出しのヒトという生物として、お互いを貪り尽くす。
私は理玖の本能を出さないように必死に咥え、理玖もまた、私の中へ深く入り込もうと、必死に泳ぐ。
そして理玖は、私の体が欲したタイミングで、理玖の遺伝子を私の子宮へと送り込む。

私と理玖の間に生まれるであろう、新しい命を想いながら……。
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