十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
「可愛い……」

理玖が私の小指にはめたのは、ミルク色が艶めく、ベビーパールがついた、フリーサイズ仕様の指輪だった。

「これ、もしかしてマタニティーリング?」

それは、手がむくみやすい妊婦さんでも安心して身につけられる仕様の指輪。
フリーサイズのタイプのものが多い。
というのも、妊婦さんはちょっとしたことで手がすぐに浮腫んでしまうので、指輪をつけっぱなしにしていると寝ている間に抜けなくなってしまうというケースも多いからだ。
実際私も、理玖がくれた指輪は今はめることができないでいる。

「パールにしてくれたんだ……」

一般的にマタニティーリングは、ベビーパールが使われていることが多い。
パールの宝石言葉には、安産祈願に結びつくような「円満」「健康」といった言葉があるため、安産祈願にはぴったりの宝石とも言われている。
妊娠がわかってから、神社で安産祈願のお守りも買ったし、縁起が良いということを色々試してはいた。
けれど、大好きな理玖に、赤ちゃんのために大好きな指輪を作ってくれることほど嬉しいことは、私にはなかった。


「本当は、お前にデザインを依頼するべきかとも思ったんだけど……この指輪は俺の願いを込めたかったから」
「願い?」
「無事に生まれてきてほしいというのと……美空が無事でいてほしいという願い」

それは、妊娠出産が女性の命を奪う恐れがあることでもあると、知っているからなのだろう。

「俺にとって、赤ちゃんも大事だけどやっぱり美空が何より大事で……だから……俺1人の願いを形にしたかった」

そう言った彼が指輪に込めた願いの意味は、デザインからすぐに分かった。
シンプルで悪目立ちはしない。
けれど上品で、どんな服にも合わせやすい。
それはつまり……いつでも一緒にいたいということ……なのだろう。

「嬉しい……ありがとう……」

私はお礼のキスを理玖に捧げてから、またじっとリングを見た。
このリングは、できるならずっとつけていたい。
もし赤ちゃんにこの指輪のことを聞かれたら、こう言ってやりたい。


「パパが私たちを愛している証拠だよ」


って。
そんな近い将来のことを考えて、私は胸が熱くなった。

「どうした?」
「未来のことを、考えてた」
「どんな?」
「そのうち、教えてあげる」

理玖は「けち」と言いながらも、優しい笑顔を浮かべて私の横に座り、私をそっと抱き寄せてきた。

「早く生まれないかな」
「あと4ヶ月。待てるでしょう?」
「そうだな、10年よりは、短い」

そう言うと、今度は理玖からキスをしてきた。
2度と離さないから、という意志が……唇ごしに伝わってきた。
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