俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「一度死滅した脳細胞の復活はあり得ない。隣接箇所が代わりの機能を果たすこともあるけど、もう5年……」
「春多くん、ごめんなさい」
「あぁ?」
「ごめん、……あの、全然分かんない」
正直に言うと、春多くんが目を丸くして私に"はぁ?"と眉を潜めた。
「説明してくれる単語が、難し過ぎて……。全部分かってあげられなくて、私、馬鹿でごめんなさい」
「ふはっ、珠里さん正直だね」
プルプルと震えて半分涙目で訴えれば、今度は吹き出されてしまう。
「で、でも、春多くんを支えてあげたいって思った!一生、側にいるし、1人になんかさせないっ!!」
「まぁ、もう3人だもんな」
春多くんが私のお腹に手を触れた。
私よりずっと大きな手だけど、細くて凄く繊細で怖がりで──。
「4人……。お母さんも一緒に4人だよ」
手首をギュッと握って春多くんの顔を見上げれば、一瞬この子の瞳が揺れる。
その悲しそうな背中に手を回して、座ったままギュッと抱きつくと。他の入居者の家族や職員さんがチラチラと視線を向けられるの分かった。
「珠里さん、ここ何処だか分かってる?」
「それ、春多くんが言うの?」
「確かにな。で、これから何処行く?豪華ディナーと高級ホテルだっけ?」
「あは、何それ」
「あんたが言ったんだろ?」
いつもの春多くんが、目を細めて意地悪そうに笑うから心がグッと痛くなる。
この子が私の不安を半減してくれたように、私もこの子の辛さを半分こしてあげられたらいいのにな。