俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「彼女、やっぱり慰謝料いらないって」
「……え?なんで?」
「お金は受け取らないって。ただ、あんたを困らせたかったんじゃない?俺が払っちゃったらすぐ解決しちゃうし」
「……そっか」
「あと、あの日……公園で会ったのは偶然だったって言ってたよ」
あぁ、公園で彼女がしゃがみ込んでいた"あの日"。
「彼女、不妊治療してたみたいでさ。薬飲んでて具合が悪かったのは本当。声をかけられて、あんたが旦那の浮気相手だってすぐに気がついたんだって」
「……」
「みーんな素通りだったのに、あんただけが声をかけてくれたって言ってた」
──親切にありがとうございます
何ヵ月になるんですか?
──まだ3ヶ月で。
ちょっと突然できちゃったんで、
戸惑ってるんですけど──
──いいな、羨ましい……
──2年前、死産したんだ──
妊娠したら、元気な赤ちゃんが無事に産まれるのは当たり前だと思ってた。
でも、全部がそうとは限らないんだ。
妊娠を望んでも必ずできるとは──……、
熱い涙がボロボロと込み上げてくる。右手で拭っても拭っても、溢れでて止まらない。
「……っく、う…ぅぇ、っ」
「あんた、あの場でよく泣かなかったよな。泣き虫のくせに頑張ったよ」
春多くんが目の前にしゃがみ込んで、背中に手を回す。その大きな胸の中にすっぽりと埋まるから、ゆっくりと目を閉じた。
謝罪をしてもしなくても、結局は、俊也さんと関係を持った時点で彼の妻である彼女のことを傷付けていた。それは、紛れもない事実で、無かったことには出来ないんだ。